1. イントロ:街中に溢れる「ガードマン」の知られざる裏側
普段、あなたが街を歩いているときに見かける工事現場。そこには必ずといっていいほど、赤い誘導灯を振る交通誘導警備員が立っています。
「いつもどこにでもいるな」と思うかもしれません。しかし、その裏側では今、凄まじい**「人手不足の嵐」**が吹き荒れていることをご存知でしょうか。
交通誘導の警備員は、単に立っているだけではありません。
• 配置の義務化: 道路使用許可において警察から配置が義務付けられており、彼らがいなければ工事は法的にストップします。
• インフラの守護神: 水道、ガス、電気。首都圏の老朽化したインフラを維持する公共工事に、彼らは不可欠です。
• 苦情の防波堤: 民間の建築現場では、近隣住民や通行車からのクレームを防ぐ「現場の顔」としての役割も担っています。
需要は無限。しかし、供給は絶望的。これが、私が身を置く警備業界のリアルです。
2. 実績の推移:50名弱から200名規模への道のり
私が今の営業所を任されたのは、2019年12月のことでした。当時の状況を振り返ると、今の規模が信じられないほどです。
• 2019年12月: 営業所長就任(当時50名弱)
• 2021年: コロナ禍での組織維持と採用戦略の抜本的見直し
• 2025年12月: 現在200名規模へ拡大(約4倍の成長)
設立から日が浅く、組織としてはまだヨレヨレの状態だった当時、私は自分でも認める「自堕落なメタボサラリーマン」でした。将来への不安を抱えながらも、目の前の荒波に放り込まれたのです。
そこで目にしたのは、業界の悪しき常識でした。
「ガードマンなんて、誰でもできる腰掛けの仕事だろう」
そんな軽い気持ちで入社してくる人が多い一方で、現実は過酷そのものです。1年間で100名採用したのに、100名が退職していく。底の抜けたバケツに水を注ぎ続けるような日々でした。
3. 逆転の秘策①:採用のハードルを下げるのではなく、「考え方」を変える
バケツに水を溜めるために、私が最初に取り組んだのは**「注ぐ水の量を圧倒的に増やすこと」**です。
私の営業所は、立地が特別恵まれているわけではありません。ターミナル駅にある他営業所と採用を取り合えば、普通に戦っても負けます。そこで私は、**「来るもの拒まず」**を鉄則にしました。
多くの管理者は「この人は〇〇だから採用したくない」と、不採用の理由を探しがちです。しかし、私は**「どうすればこの人を採用できるか?」**へと180度発想を転換しました。
「高齢で体力が不安なら、休憩が多く取れる現場を探そう」
「コミュニケーションが苦手なら、無線が不要な静かな現場に配属しよう」
相手の欠点を見るのではなく、その人の適性が活きる場所をこちらが必死に用意する。この「寄り添い型採用」こそが、採用数を最大化させた第一の秘策です。
4. 逆転の秘策②:現場の「5メートル」の差に寄り添う適正配置
注ぐ水を増やしても、バケツの穴を塞がなければ意味がありません。退職者数を減らすために私が行ったのは、徹底的な現場主義です。
交通誘導の現場は、実は「5メートル」で難易度が激変します。
交差点の真ん中か、少し離れた角か。たったそれだけで、精神的な負荷は雲泥の差になります。私は、毎日すべての現場の状況と、200名規模の警備員一人ひとりの性格・能力をパズルのように組み合わせました。
• 「昨日はきつい現場だったから、今日は少し楽な現場で体力を温存してもらおう」
• 「この現場は複雑だから、プロ意識の高いAさんにお願いしよう」
さらに、私は自ら現場を巡回することを欠かしません。不満が爆発する前に「聴き取り」を行う。「営業所長が自分の苦労を分かってくれている」その安心感が、居心地の良さを生み、バケツの穴を塞ぐ最強の「栓」になったのです。
5. 逆転の秘策③:営業努力で「警備員の利益」を勝ち取る
警備員の定着率を上げるためには、実は「営業」も重要です。交通誘導には、現場が早く終わっても一日の給料が保証される「日当保証」という慣習があります。
私は営業所長として、意図的に**「早く終わる現場を持っているお客様」**を開拓しました。
「17時までかかる過酷な現場」ばかりではなく、時には「15時に終わる現場」というインセンティブを警備員に提供する。逆に、本当に大変な現場には「君にしか頼めない」という信頼を添えて送り出す。
「楽な現場で体力を守り、大変な現場でプライドを守る」
この営業と配置の両輪が、5年で200名規模という組織を築き上げた原動力です。
6. 結び:200人の命を背負いながら、私がFIREを目指す理由
2019年に50名弱だった組織は、2025年現在、200名規模のプロ集団へと成長しました。
この仕事には、何物にも代えがたいやりがいがあります。しかし、同時に痛烈に感じているのは、これは自分が止まれば終わってしまう「労働集約型ビジネス」の極致であるということです。
だからこそ、私は営業所長としての責任を全力で果たしながら、一方で**「資産形成(FIRE)」**という別の柱を立てる決意をしました。
自堕落だった私がAIを使い、家計簿をつけ、ブログを書く。それは、200人を守る強さと、自分と家族を守る自由を両立させるための、私なりの挑戦です。
メタボな営業所長の挑戦は、まだ始まったばかりです。



コメント